「死んでいった君へ、、、。」

「あの時、死んでいたらいいのか今でも分からない。ただ今生きているのは、君を想う人を存在させるだけかもしれない」

9、明日に向かって

 

 

ルカ、あれから18 年経った。僕は36 歳になった。どんどん君との年齢が離れていく。
もう君から見たら、おじさんの歳だろう。僕は君の誕生日は知らない。君も僕の誕生日を知らなかったろう。長い付き合いではなかったから、誕生日すら聞くことも無かった。2ヶ月間という、短い付き合いだった。でもそれは僕の中では、人生で最も尊い2ヵ月だった。


そして10月に君が亡くなったことだけは忘れない。あの景色を覚えている?病院の裏山から、高台を上がって見下ろせる札幌の景色。もう2度と見ることのないあの景色。僕は君の彼氏でふさわしいように、18歳で亡くなった君を後悔させることが出来るように歳を重ねることが出来ただろうか。


あの時はまだ2 人とも子どもと大人の狭間だった。目の前のことしか見られず、毎日に
焦っていた。でも、生きていく疑問については、まだ解決できていない。今でも、鬱は治らず、病院に通っている。アームカットやODはもうしていない。新薬が開発されたんだ。
それと先生の診療のおかげで、もう自分を傷つけることはなくなった。ケロイド状だった傷跡も大分薄くなって、半袖も着られるようになった。ルカも生きていたら、治っていたかもしれないと思うと、どうしようもない気持ちになる。
「これがルカさんのお墓だね。」マユが言った。


「うん、そうだよ。これが君に見せたかったルカのお墓。」そう言って僕はルカのお墓にオレンジの金木犀を添えた。金木犀の花言葉は「初恋」だった。
その日は10月のルカの命日で函館の風は弱く、何かを祝福するように晴れ渡っていた。その女性は僕が初めて他の人に、ルカのことを話そうと思った人だった。ルカのことを知りたい、と言ってくれた。それで僕達は、札幌から車に乗って4時間かけて函館に来ていた。そうだ。ルカ、僕は今働いているんだ。アルバイトだけど、ファミレスで調理の仕事をしている。そこで新しい恋人も出来た。ルカがいなくなってから18年。やっと違う人と付き合えた。小山マユさんといって7つ年下で、同じところで働いている。ルカにきちんと紹介したかったんだ。髪も長くて、君とは似ていないけど、何処かその人の中に君を見ている。新しい彼女が出来て、どう思っているかな?君はやきもちをやくタイプじゃないから、多分いつものように笑っているだろう。


新しい一歩を祝福してほしい。指輪は君の写真の前に、大切に置いてある。ルカ、生きていたら色々あるんだ。僕も、あの時死んでいたら、後悔はしていなかったと思う。君と一緒に逝けたのだから。それから「夢」のことだけどね、今なら答えられるよ。マユを世界一幸せにして、世界一の家庭を作るんだ。もう君みたいな人とは一生出会えないと思う。
僕の人生に突然現れて消えていった君に、僕はまるで夢を見ているような気分だった。僕は一緒に見た札幌の空と君のことを一生忘れない。そして、先に逝ってしまった事を後悔させてやるんだ。
「ずるいよぉ。やっぱり私も一緒に生きていくよ。」そう君に思いしらせてあげるんだ.。


ルカ、愛しています。


ありがとう。

 


終わり